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春日若宮おん祭ー遷幸の儀ー

· 奈良のこと

まつりとは、祀り、奉りとも書くように、

神々とかかわる、奉ることからきています。

さらにまつりの語源は「待つ」。

神の出現を待つことこそが祭りの原点と言われています。

春日若宮おん祭。通称おん祭。

漢字で書くと御祭。もしくは大祭。

つまり、祭りの中の祭りがこの「おん祭」ということになるのでしょう。

17日0時。

おん祭の中でも特別厳粛な秘儀中の秘儀、遷幸の儀を拝見してきました。

遷幸の儀とは、春日若宮神社に祀られるアメノコヤネノミコトとヒメガミの御子の子であるアメノオシクモネノミコトが若宮から移動される儀式です。

春日大社の参道を、約100名の神職に取り囲まれて、私たちの目の前をゆっくりと歩いて行かれるのです。

明かりは一切つけてはだめ。俗世の明かりは穢れているから。

話もしてはだめ。

人々は暗闇の中、神の邪魔にならぬよう参道の両端に立ち、じっと黙って神を待ちます。

まさに神の遷幸を「待つ」、おん祭りは、祭の原点が現代に残る貴重な祭ではないでしょうか。

~~~

2350分、参道のすべての明かりが消される。

それまでわいわい話していた人々が、はっ、としたように静まる。

「もうすぐやで。」

「もうすぐやな。」

小さな声で何人かが囁き、心臓の鼓動のような若宮から微かに響く太鼓の音を残して、あたりは沈黙に包まれた。

星明りのみの暗闇の世界。

うっすらと、参道の反対側に並ぶ人々のシルエットだけが見える。

きっとこの中のどこかに妖怪や神様が紛れ込んでいるのだろうなぁ、なんて一人想像して、興奮しながら暗闇に目を凝らす。

と、そのとき

「クワァー!クワァーー!」

突然すぐそばの森の中から鳴き声が響いた。

シルエットたちが一斉にそちらへ振り向く気配がする。

「なんや、なんや」

「すぐそばやで」

「鹿じゃないやんな」

「こんな声きいたことないで」

不安げなひそひそ声が聞こえる。

キジの声に似ていた。

ただ、このあたりでキジなんて見かけたことがないし、こんな真夜中に人のすぐそばでキジが突然鳴くなんて普通じゃない。

しばらくの間、そのキジと思われる鳥はすぐそばの暗闇で鳴き続けていたが、1分ほどして、まるで消えたように鳴き止んだ。

生き物が動く気配はしなかった。

再び異質な沈黙が戻ってきて、心臓の鼓動のような若宮からの太鼓の音を皆黙って聞いていた。

0

太古の音が一度静まり、どんどんどんどんどん…と連続して音がした。

若宮で儀式が始まったのだ。

空気がぴんと張り詰める。

雅楽の音が耳に届く。

皆、息を沈めて、神を待つ。

しばらくすると、奥の方の参道の木々にぼんやりと明かりがみえた。

神の行列が来た。

先頭は、参道の両側を二本の大きな松明。

松明を引く人と、その火元を棒でたたく人がいて、たたかれて落ちた小さな燃える木くずが参道の両側に穏やかな火の道をつくる。

その後、その道の中心を、神が歩いてくる。

神が目の前まで来ると、皆二拝一礼し神を迎える。

神の周りは大勢の白装束の神職が取り囲んでいて、皆「おー、おー」と低く唸っている。

その唸りが森にこだまし、更に異様な空間を作り上げる。

実際、大勢の神職に取り囲まれているため神を見ることはできないが、

その行列を間近に見たとき、私は間違いなく今まで感じたことのない異質なものを感じた。

それは、真夜中に一人で大海を前にした時のような、目に見えない圧倒的な巨大なものに対する恐怖に似ていた。

そして神は、松明の明かりと共に参道を下って行った。

神の後には楽人が続き、そのあとに巫女、最後にその他の人々が続く。

皆一様に「おー、おー」と唸り、その声は一つの大きな塊のように暗闇に響いていた。

強い神、というものをはじめて肌で感じた。

こんな怪しい奈良に、私は何とも言えぬ魅力を感じるのです。

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